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加賀宝生
石川県金沢市出身。5歳の時に能楽の稽古を始め、7歳で初舞台を踏む。金沢市内の高校を卒業後、宝生流宗家の内弟子となる。東京藝術大学音楽学部邦楽科を卒業後は東京を拠点に活動し、2001年に独立。09年から拠点を金沢に移し、石川県立能楽堂を中心に精力的に公演を行うほか、「いしかわ伝統芸能体験教室」の講師を務めるなど、後進の指導にも意欲的である。
演じるのは現代にも通じる日本人の心。
広く、深く楽しめるのが能楽の魅力です。
- 石川県内では、能楽の中でも宝生流が盛んで、「加賀宝生」とも呼ばれています。渡邊さんから見た宝生流や加賀宝生の特徴を教えてください。
- 宝生流は将軍家や大名家をはじめ武士に親しまれてきた歴史があり、質実剛健さが特徴です。一見、動きは地味に見えますが、そこにはむだをそぎ落とし、うちにこめた力強さがあります。また、「謡、宝生」といわれ、宝生流の謡は定評があります。
そして、「加賀宝生」では “座”としてのまとまりも特徴に挙げられます。そもそも宝生流は能楽を演じる「シテ方」の流儀の一つですが、加賀宝生では相手役となるワキ方、能とともに演じられる狂言方、鼓や太鼓などのお囃子方も含めた一つの座として見ることができます。 - 石川県で能楽が根付いた理由は何でしょうか。
- 加賀藩主・前田家の存在を抜きに語ることはできません。加賀では古くから能楽が行われていたようですが、盛んになったのは能楽を愛した初代・利家公が藩主になってからです。また、加賀藩は、武家だけでなく町民にも能楽を奨励しました。明治維新後、能楽は全国的に一旦、衰退するのですが、加賀では専業の能役者だけでなく、町役者や兼業役者が多かったことからいち早く復興しました。そして、明治34年には、地元の政界・財界の支援を受けて金沢能楽会が誕生し、同会が中心となって現在まで能楽の文化が引き継がれています。
- 金沢能楽会では、毎月のように開く定例能など、石川県立能楽堂(金沢市石引)を拠点にさまざまな催しを行っています。渡邊さんもたくさんの舞台に出演されていますが、能楽の醍醐味はどこにあると思われますか。
- 能楽の宝生流には181曲もの演目があり、その根本に描かれているのはどれも日本人の心です。信仰や男女の恋愛、主従の師弟愛など、現代にも通じる普遍的なテーマに触れられます。加えて、能楽は「美」の世界です。所作はもちろん、装束や舞台、楽器の装飾など、一つひとつに受け継がれてきた美しさがあります。
- ただ、触れたことのない人にとっては、能楽に敷居の高さを感じている方も多いのではないでしょうか。話の筋が分からないと楽しめないとか・・・。
- いえいえ、決してそんなことはありません。最初は細かな内容は分からなくても大丈夫です。「普段とは違う別世界をのぞいてみよう」。そんな軽い気持ちで、雰囲気を感じるだけでもいいと思います。能楽堂という特殊な空間で特別な時間の流れを感じていただきたいです。豪華な能装束とか役者の足の運び、楽器の音。すべてが普段感じることのないものだと思います。
そして、慣れてきたら謡の本や専門書に目を通してみてください。理解を深めることで、また違う楽しみ方が見えてきます。また、初めて観るという方でも、大人数が出演する舞台や、鬼が登場する切能(きりのう)という分類の演目は動きが大きく、きっと楽しめるはずですよ。 - なるほど、能楽は、最初の間口が広く、知るほどに深く楽しめる芸能なんですね。石川県立能楽堂では、7~8月の毎週土曜に開く「観能の夕べ」など、初心者も楽しめるイベントを数多く実施しています。ぜひ鑑賞してほしいと思います。
- そうですね。ドレスコードもあまり気になさらなくてもよいと思います。ただ、春の別会能など特別な催しの際は、少しおめかしされて鑑賞されるとよいかもしれませんね。
公演チケットは、石川県立能楽堂や石川県立音楽堂で販売するほか、インターネットでも購入できます。
それに、石川県立能楽堂や金沢能楽美術館(金沢市広坂)では、能楽のワークショップや装束・能面の着装体験なども行っていますので、これらに参加することで、能楽を身近に感じられると思いますよ。 - 最後に、渡邊さんのこれからの目標を教えてください。
- 能楽が盛んな石川県でも、愛好者は徐々に減っているのが実情です。以前はお稽古事に通われる方もたくさんいましたが、最近は少なくなっていて、このままでは石川県の能楽が衰退してしまうという強い危機感を持っています。受け継がれた宝生流の芸を変えることなく精進するとともに、時代の流れに取り残されないよう、新たな取り組みにも知恵を絞っていきたいと考えています。
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