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狂言
石川県金沢市出身。3歳の時に父・炭哲男師のもとで狂言を始め、5歳で初舞台を踏む。7歳の時に初シテを務める。九世野村万蔵師、能村祐丞師に師事。2013年秋に能楽協会に入会した。星稜高校、金沢大学出身。山代狂言塾などで指導にも力を注ぐ。
狂言は、“笑い”を通して
過去と現代をつなぐタイムマシーン。
- 石川県内では、石川県立能楽堂(金沢市石引)で毎月、金沢能楽会主催の定例能が開かれ、その際には狂言も演じられています。石川県の狂言の特色について教えてください。
- 能楽協会の支部は全国で7つあり、その一つが北陸支部です。特に、石川県内では「加賀宝生」と言われるほど昔から能楽が盛んで、能とともに狂言も発展してきました。現在、能楽協会には、私を含めて石川県出身者5人、富山県出身者4人の合計9人の狂言師が所属し、定例能や石川県主催の「観能の夕べ」など、北陸エリアで開く公演を中心に活動しています。ちなみに、能と同じように、狂言にも流派があり、北陸では和泉流が主に活動しています。
- 和泉流の狂言が根付いた背景は何ですか。
- 加賀藩前田家の影響が、とても大きいと言えます。歴史をさかのぼると、和泉流初世野村万蔵が加賀藩お抱えの狂言師となり、石川県での狂言の歴史が本格的に始まりました。長い歴史の中で野村万蔵家は東京に拠点を移しましたが、金沢で活躍する能村祐丞先生をはじめ、北陸で活動する狂言師はみな野村万蔵先生に師事し、現在まで300年近く和泉流の狂言を綿々とこの地に受け継いでいます。私も大学を1年間休学し、九世野村万蔵先生のもとで修業させていただきました。
- 能と狂言は、よく兄弟のような関係と言われます。その違いはどこにありますか。
- 能と狂言は合わせて「能楽」とされ、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。その違いは、簡単に言うと、能が謡と舞を中心とした歌舞劇であるのに対し、狂言はセリフとしぐさが中心となっている点です。人間本来が持つ明るさやこっけいさなどにフォーカスしたのが、狂言と言えるでしょう。召使いの太郎冠者(たろうかじゃ)やその主人、大名、百姓、鬼などを主役とした多種多様な演目がありますよ。
- 炭さんは、5歳で初舞台を踏んでから長年、狂言の世界にいらっしゃいます。どのような点に狂言の魅力を感じていますか。
- 狂言は、“笑い”を通して過去と現代をつなぐタイムマシーンだと考えています。狂言が生まれたのは、600年以上前の室町時代です。基本的な話の構造は当時と変わっておらず、狂言を通して昔の人たちの感性に今を生きる私たちも触れることができます。さらに、面白いのは、500年、600年前の人と通じ合える部分も少なくない点です。このホームページの動画で紹介する「成上り」という演目は、太郎冠者が主人から預かっていた太刀を泥棒に盗まれたことを面白おかしく言い訳する場面が見どころの一つになっています。上司と部下の関係など、現代にも通じる部分をたくさん感じられるはずですよ。それに狂言は、口語体で演じられます。聞き慣れない言葉もたまに出てくるかもしれませんが、初めての方でも物語の内容が分かりやすい点も、狂言の魅力と言えるでしょう。
- 一方で、狂言が根付く石川県内でも、狂言を習われる方は少なくなっていると聞きます。
- そうなんです。私が子どものころと比べて、狂言師の数はあまり変わっていませんが、一般の方でお稽古をされる方は減っています。私たちも普及啓発や担い手の育成に取り組んでいるところで、金沢市内の「加賀宝生子ども塾」、加賀市山代温泉の「山代狂言塾」などで狂言の指導に力を注いでいます。
- 狂言の面白さを知ってもらう一番の方法はやはり、舞台を見てもらうことだと思います。炭さんから皆さんにメッセージをお願いします。
- 狂言は、事前学習も何もいりません。見た通り、聞こえた通りに楽しんでいただければいいのです。狂言は伝統芸能ですが、世代を問わずたくさんの人にその面白さを十分に感じていただける生きた芸能だと思います。肩肘張らず、能楽堂にお越しいただき、気軽に狂言の世界に触れていただければうれしいですね。
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